在宅歯科サービスの yui ニュースレター

訪問歯科(歯科往診)のyui

「歯科衛生士のコラム」咀嚼と高齢者の知的機能の維持・向上(2011/8/10)


 前回はおいしさについてお話いたしました。今回はおいしく物を食べることによる相乗効果、主に咀嚼による脳の神経活動についてお話しようと思います。

 脳の神経活動の変化は、外部からの情報を脳に送って脳の神経細胞を活動させることにより起こります。私たちは外部からの情報を五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚、痛覚などの体性感覚)で受容し、五感のすべては大脳に入って意識レベルにのぼります。

 たとえば、食物を噛むと味がでます。味の場合、五味(塩辛い・苦い・甘い・酸っぱい・旨い<辛味は痛覚としてとらえられます>)は舌の味蕾で電気信号に変換され、この電気信号は大脳皮質の味覚野に到達し、最終的には連合野にて過去との記憶と照合し、五味を識別するしくみになっています。

 歯触り、舌触りなどの体性感覚情報は、これらを受容する多くの感覚受容器が口には存在し、ここから大脳皮質の体性感覚野(中心後回)に送られ、さらに大脳皮質の連合野で処理・統合されます。
 したがって、おいしく物を食べるという日常的な行為は、その人が意識しようとしまいと、味覚情報、体性感覚情報、嗅覚情報、聴覚感覚、視覚感覚という五感情報が一挙に脳に入力されて脳の神経活動を高めるのです。

 では、噛むと脳のどこの神経活動が高まるのでしょうか? 神奈川歯科大学の小野塚博士の研究結果によると、脳の種々の部位が活性化されることが明らかになり、最も顕著な活性化は大脳皮質の感覚運動野でみられました。さらに、高齢者に同じテストをしたところ、新たに皮質連合野の部位が賦活されていることがわかり、中でも前頭前野には思考・計画・学習・推論・注意・抑制・意欲・情操・想像などもっとも知的で理論的な機能が局在しており、特に右側前頭前野の活性化は高齢期に衰える記憶力を増進するのに重要といわれています。

 以上のことからも、噛むことが高齢者の知的機能の維持・向上に重要であることがうかがわれますね。次回は、記憶力と咀嚼についてより詳しくお話したいと思います。

【歯科衛生士 H】



//ドロワーメニュー開閉用スクリプト